研究概要 |
日和見感染は様々な病的状態や人為操作に併発して臨床上重要であるが, 発症条件を実験で裏付けた報告は殆どない. かって野性のカニクイザルに免疫抑制下で帯状疱疹ウイルス(VZV)の感染実験を行った際, それが実は潜在サイトメガロウイルス(CMV)の活性化を必発させる事実を知り, その実験条件の検討により, 潜在ウイルスの活性化のための要件を探る実験に転進した. 結果:1)免疫抑制剤は三種(抗胸腺グロブリン, エンドキサン, コーチゾン・アセテート)を併用して繰り返し投与し, 組織ことに胸腺髄質部のリンパ球の殆どが枯渇させることが必要であった. 2)それに加えて, 何故か不可欠であったVZV接種の役割を探るべく, 問題の井沢株の生ウイルスとそれをホルマリンで不活化したものとを用いて同じ実験を行い, 両者がCMV活性化誘導の点で等価である結果を得て, VZVが(輸血や臓器移植同様)抗原として免疫学的に作用することを明らかにした. 3)免疫抑制実験に汚染の多い野性ザルの使用はバイオハザードの点で問題とされ, 飼育F_1ザルに代える検討から他のウイルスが殆ど除き得たSPFサルが, CMVだけは保有率は80%を越え, 野性ザルを僅かに下まわるに過ぎないなど, 蔓延の実態を知り得た. 但し活性化したCMV感染が全身に拡がるまでの期間から推して, F_1サルでは野性ザルに比して潜在ウイルスの量が少ないか, 又は免疫抑制により抵抗性があるらしい. 4)CMVも陰性のサルに, 我々が分離したカニクイザルCMV株を同条件下で接種して初感染像をつくり, 活性化による再感染の病理像と対比する企ては, 前者が直前の検査で陽転しており果たせなかった. 本研究により, カニクイザルのCMV感染の蔓延とその潜伏情況がヒトのそれらと近似することが明らかとなり, 又それを任意に活性化を誘導できるモデル系として確立され, 小動物では望み得ない有用性も示された.
|