研究概要 |
1.プラジカンテルを用いた多包虫症治療実験。チャイニーズハムスターの腹腔に多包虫の原頭節を接種し、プラジカンテルを1頭当り2.34mgを2〜3日に1回皮下に注射し原頭節の接種後60日に剖検して多包虫を切り出し、その重量を測定して対照群と比較した。治療群と対照群における多包虫重量に、統計的に有意な差はなく、プラジカンテルには多包虫症に対する治療効果は認められなかった。 2.X線照射による多包虫症治療実験。胚層と角皮層からなる、感染後20日の無原頭節多包虫に、5,000、15,000、25,000、35,000、45,000、55,000RのX線照射を行い、チャイニーズハムスターの腹腔に移植して、その後の多包虫の発育を調べた。移植後113日に剖検すると、35,000Rまでの照射量では、X線の影響は顕著でなかった。45,000R以上を照射された多包虫の発育は明かに阻害され、萎縮、変性していた。電顕像でも胚層のtegment,tegment cell regian,innermost areaが崩壊しており、多包虫の増殖能力が失われたことを示している。 3.温熱処理による多包虫症治療実験。胚層と角皮層からなる、感染後14日の無原頭節多包虫を44,46,48℃のincubatorに120分入れておき、コットンラットに移植してその後の多包虫の発育を調べた。93日後に剖検すると、44℃処理では原頭節を持つ正常な多包虫となったが、46,48℃処理では発育しなかった。電顕的には、46℃以上の温度に曝露された多包虫は、胚層細胞の核のクロマチンが異常に凝縮していた。この温度では実際の治療に用いるには高過ぎるが、他の方法と併用すれば実用の可能性がある。 4.単包虫の分離と継代。オーストラリア産の牛から単包虫を分離し継代することに成功した。これによって多包虫のみならず単包虫の治療実験も可能となった。5.日本人の多包虫症例の文献的検索。これまでに報告された国内の症例を文献的に検索し、治療の実態と予後の関係を検討した。
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