グラム陰性桿菌のセファロスポリナーゼ(CSase)産生遺伝子は染色体性支配下にあり、臨床分離株からのCSase産生遺伝子を担うプラスミドは現在2例報告があるだけである。何故プラスミド支配のCSase産生遺伝子が検出されにくいのかその理由について遺伝学的検討を行った結果、次の結論を得た。 (1).染色体性セファロスポリナーゼ産生遺伝子がプラスミド化されても、大腸菌K12株を宿主とした場合、その遺伝子発現は抑制される。耐性値で宿主の2倍、酵素活性で宿主の4〜6倍である。 (2).大腸菌宿主変異株(【deb^-】)においてセファロスポリナーゼ産生遺伝子は耐性誘導により十分その耐性を発現した。 (3) 実験室内で分離した誘導型から構成型へと変異したセファロスポリナーーゼ産生遺伝子は、大腸菌K12野生株(【deb^+】)、および宿主変異株【deb^-】においてもその耐性遺伝子発現が十分である。 (4) β-ラクタム剤による変異株、誘導型から構成型への変異率は【10^(-6)】〜【10^(-7)】頻度であり、薬剤の保有する誘導能の強弱により変異率が左右される。 (5) 以上の結果より、臨床材料からセファロスポリナーゼ産生プラスミドが検出されないのは、宿主と酵素産生遺伝子両者の変異率の積算であるためと推定される。しかし、最近使用されているβ-ラクタム剤の誘導能を考えると、近い将来セファロスポリナーゼ産生遺伝子を保有するRプラスミドの出現は予想される。
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