研究概要 |
医学領域で重要な病原性細菌の病原性決定因子の一部がプラスミドに存在している事実が近年多く指摘され、それらの遺伝子構造と機能を解析することは重要なテーマとなっている。しかし病原性プラスミドの多くは非伝達性、遺伝子マーカーを持たず病原性状も不安定で分子遺伝学的解析は容易ではない。このことからトランスポゾンによる標識化が多用されるが、病原性細菌を扱う場合いくつかの制約が存在し実験を困難にしているのが現状である。その理由は(i)野外株の多くが多剤耐性を示し、しばしば標識化の耐性マーカーと重複する。(ii)野外株は形質転換が困難でファージの感染も許さず標識化に用いるトランスポゾンベクターの菌体移入が容易ではない。このような現状から本研究は、(1)広宿主域伝達性高温自殺ベクターを作製し、(2)Tn5の転位能を損なうことなく、カナマイシン耐性を他の耐性マーカーと組換えDNAの手法で置換しこれを(1)で作製したベクターへ転位させ、(3)これらを接合伝達にて種々病原菌に移入し高温培養下ベクターを除去しプラスミドの標識化を行なう。 したがって本研究はさまざまなグラム陰性菌に導入可能な新しいトランスポゾン標識化あるいは挿入不活化の系をTn5で確立し、実際に病原性細菌でその有効性を検証することを目的とした。現在本研究では(1)伝達性プラスミドR388(広宿主域)より高温複製維持不能変異株を単離し、(2)Tn5のトランスポゾシキットとして、Tn5-T【C^r】,Tn5-C【M^r】,Tn5-A【P^r】,Tn5-S【M^r】,Tn5-T【P^r】,Tn5-G【M^r】の各々を作製した。またこれらキットの一部を(1)に転位させたものを一旦作製し、B群赤痢菌の細胞侵入性プラスミドの遺伝子解析を行ないその有用性を実証した。現在広範囲のグラム陰性菌で本研究の確立した系を応用しつつある。
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