研究概要 |
解熱鎮痛剤アスピリン,アセトアミノフェンのゲノム突然変異誘発の可能性についてマウスを用いて検討した。実験の方法は次のとおりである。 ICR雌マウス(生後3〜4ケ月と11〜12ケ月)に排卵誘発処理を行った。アスピリン及びアセトアミノフェンをHCG投与1時間前に経口投与した。投与量は対照(5%アラビアゴム)、250,500mg/kgである。ただし、加令群ではアスピリン投与実験のみを行った。薬剤処理の12時間後、卵を回収し、Tankowski法で染色体標本を作成した。アスピリン投与実験(若年マウス)では、250mg群30匹,500mg群26匹から910個,862個の卵を回収した。そのうち208個,168個を染色体分析した。アセトアミノフェン投与実験(若年マウス)では、250mg群18匹から545個,500mg群20匹から623個の卵を回収した。染色体分析はそれぞれ116個,129個で可能であった。対照では20匹から624個の卵を回収、うち148個が分析可能であった。高一倍性異常はいずれの群にも発見されなかった。加令マウスを用いた実験は、アスピリン投与のみ行った。250mg群16匹,500mg群12匹,対照群18匹に投与した。それぞれの群で416個,341個,527個の卵を回収し、98個,65個,100個のみ分析可能であった。高一倍性異常は250mg群で3個(3.1%),500mg群で1個(0.7%),対照群で2個(2.0%)のみであった。薬剤投与で高一倍性異常は増加傾向を認めなかった。若年群との比較では加令群に高一倍性異常の多発傾向を認めたが、例数が不十分なため有意の差は現在のところない。低一倍性異常の出現頻度は老若マウスをとわず各群で10〜15%認められ、いずれもスライド作成時の人工産物と思われる。以上の結果から、解熱鎮痛剤はマウスの第一成熟分裂の段階で染色体異常を誘発することは確認できなかった。またマウスの加令により高一倍性異常は増加の傾向を示したが、解熱鎮痛剤が相加的又は相乗的に染色体異常の発生を増強せしめるか否かについても確認できなかった。
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