研究概要 |
火山活動の被害は一般には自然災害として認識され、大気汚染の立場から人の健康に対する影響に関心が向けられることは少ない。これに対して桜島火山は殆ど連日の噴煙活動を続けており、噴石被害の外にも人の健康に対する影響も考えられる。本研究は、鹿児島県の人口動態統計を用いて、桜島火山を中心とする同心円で区分した地域の死亡像、死亡率の年次的変化、さらに週単位での死亡数の変動を調べ、桜島火山との距離関係や高度の火山性大気汚染が出現した時の死亡数の変動に対する影響を短時間ベースで検討した。また、桜島町の国民健康保険加入者について、医療機関における呼吸器系疾患の受診内容から呼吸器疾患の罹病,有病率を調べ、対照地域としての大浦町の場合と比較検討した。結果の概要は次の通りである。 (1)桜島から距離30km以内の区分地域においては、気管支炎,肺気腫,インフルエンザによる死亡実数は期待数を有意に上廻った上、これら疾病のSMRには桜島からの距離に関して勾配関係が見られ、さらに、桜島に近い地域では、気管支炎,喘息及び肺気腫を併せた呼吸器疾患の年次別訂正死亡率は、火山の爆発回数がピークを示した年に一致して上昇した。これらのことから、火山活動による大気汚染が呼吸器疾患の死亡を高めていることが示唆された。 (2)死亡数の週変動からは、1時間値で0.2ppm以上の【SO_2】濃度が出現した週の次週には一過性の死亡数増加が見られ、高度の火山性大気汚染で過剰死亡がおきている可能性が疑われた。 (3)医療機関における受診状況からは、櫻島町では、気管支炎,喘息の罹患,有病率は櫻島町の方が対照の非汚染地域より高く、殊に、喘息の月別受診件数の変動は浮遊麈濃度或いは降灰量よりも、【SO_2】濃度と有意の正相関々係を示し、季節的な変動というよりも、火山性大気汚染の影響を反映していることが示唆された。
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