研究概要 |
地理医学は地域における死亡率や罹患率の分布、あるいは種々の環境条件の実態について、地域差や地域的特徴を明らかにするとともに、その発生要因を解明しようとするものである。最近におけるコンピューターを用いた情報科学などの関連分野の進歩と医学への導入効果から地理医学は盛んになりつつある。今後さらに地理医学の発展、とくに成人病に関する地理医学の研究が望まれるので、本研究ではそのような文献や資料の検討を通じて、地理医学研究の方法論や応用について系統的にまとめようとしたものである。 地理医学は国内,国外ともに疾病,死亡,環境要因の地図への表現方法の研究と伝染性疾患の疫学的研究から出発している。この研究分野の呼称としては他に、地理病理学,医学地理,健康地理学などがあるが、その内容はいずれも類似している。とくに地理医学は究極的に疾病発生要因を解明しようとするものであり、記述疫学の一分野として位置づけられる。成人病のように広く自然的,生物学的,社会経済的な因子との関連性が指摘されているものについては、学際的である地理医学の研究手法が効力を発揮するものと思われる。方法論的には疾病地図に基づく解析から始まっているが、近年においてその研究動向は多様化している。実際の解析に用いられているデータの収集方法や処理方法については、コンピューターの普及により、取り込む情報量とその処理能力は飛躍的に向上しており、より詳細な分析が可能となっている。 従来より、伝染性疾患の生態学的研究,疾病の空間拡散に関する研究などが行なわれてきた。しかし、今日の先進国において主要死因となっている成人病の地理医学に関する研究業績は、最近とみに発展しつつあるとはいえ意外に少ない。それらの体系化については未だ不十分であり、今後引き続き本課題と取り組む必要を痛感している。
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