研究概要 |
心臓死と呼吸死における急死時のストレスホルモンの対応を究明すべく, ラットを用い, 血中および諸臓器内の副腎皮質ホルモンのcorticosterone(CS)やカテコールアミン(CA)のepinephrine(EP), norepinephrine(NE), dopamine(DA), それにcyclicAMPを対象に脳虚血および大動脈弁狭窄のような既存障害の有無の条件下でKCL静注による心停止先行型とSCC静注による呼吸停止先行型急死の死戦期や死亡直後の測定値を比較検討した. 既存障害のない, いわゆる健常時に心停止先行または呼吸停止先行を無麻酔下で惹起させた場合, 血中のCSやCA(EP,NE)は呼吸死に相当する後者の方が有意に高い値を示した. 副腎ではCS,CA(EP,NE,DA)共に呼吸死の方が有意に低値であった. 脳内のCA(NE,DA)は両急死とも近似な値で, 心筋内のCA(NE,DA)では特にNEにおいて呼吸死の方が著しく低値であった. 無麻酔下の脳虚血では, 両急死の血中CSとEP,NEは呼吸死の方が高レベル傾向にあったが, その差はCAの方が有意であった. 副腎内CSは逆に低レベルで, CAは両急死とも同レベルであった. 脳や心筋のCAは健常時の場合と同様な結果であった. 心機能障害として無麻酔下の大動脈弁狭窄では, 両急死間における血中のCSやCA, それに副腎のCS,CAも脳虚血下の場合と同様な結果であった. 脳内CAではNEにおいて呼吸死の方が僅かに高い傾向を示した. 心筋のCAは健常時や脳虚血下と同じ結果であった. CyclicAMPの場合には心筋においてのみ心臓死の方が有意に高レベルを示した. 以上の結果から心停止先行および呼吸停止先行による急死時のストレスホルモン動態の様相は液性伝達系や神経性伝達系のホルモンの違いにより, また脳, 心臓における既存障害の有無により著しく異なることが判明した. さらに急死の病態を知る目安として, 副腎や心筋内のストレスホルモンやその関連物質の量的解析により心臓死と呼吸死の判別が可能であることが示唆された.
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