研究概要 |
我々は, ABO式血液型不適合により死亡し, 司法解剖された鑑定例の臨床経過および病理所見に基づき死因の分析を行なったところ, 33例のものが見られた. その内訳はショック死11例, DICを主徴とするもの5例, 下部ネフロンネフローゼを主徴とするもの10例, 両者を合併していると思われるもの6例, そのいずれにも属さないと思われるもの1例であった. そこで, これら不適合輸血反応が何に起因するか原因物質等について, 実験動物を用いて再現してみようと試みた. その結果, ヒトの抗A+A型血球, 抗B+B型血球を5:2の割合にして試験管内で反応させ, その混合物をウサギに注入すると相当の症状を起こしヒトの生体と同様の不適合輸血副作用が認められ, 実験的不適合輸血反応の原因物質は, 試験管内反応における抗原抗体混合物に影響することが判明した. これらの病理所見からみて, 下部ネフロンネフローゼでは, 下部尿細管の閉塞および壊死を主徴しており, DICでは, 腎の糸球体に血栓像を主徴とし, 大きな相違が見られた. 次に, 糸球体腎炎の発症について検討した結果, 蛍光抗体法において, 糸球体の係蹄壁に沿ってIgG, IgMおよびC_3が沈着しているのが観察され, 最大20mg/dayの尿タンパクが認められたことから, 軽度の糸球体腎炎が発症していると考えられた. この症状はIgGの沈着量が多い程, 尿タンパク量は多い傾向が見られるようだが, この結果からは著明な抗体の沈着は認められなかった. 従って, 重症の糸球体腎炎が発症しなかったのは, IgGの沈着量が少なかったものと考えられた. 但し, 赤血球膜を注入したことで, 実験動物の抗体価が上昇したもの程IgGの沈着量も多く, 尿タンパク量も多い傾向が認められた. 従って, 抗原を注入した場合, 抗体価が上昇しやすい条件を考えることで, より重症の糸球体腎炎が発症するものと考えられた.
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