研究概要 |
申請者らは研究実施計画に基づき研究を行い、以下の様な成果を得た。(1)種々の肝疾患患者の血清を得、初代培養ラット肝細胞におけるDNA合成に及ぼすこれらの血清の影響を見た。DNA合成活性はPulse-labelによる〔【^3H】〕チミジンの取り込みで測定した。慢性肝炎患者血清はDNA合成に影響しなかったが、肝硬変症患者血清は正常者血清の1.5-2倍に増加させた。一方劇症肝炎患者血清はDNA合成を著しく増加させ、最も高い症例では正常者の約100倍に達し、最適濃度のInsulin(【10^(-7)】M)+EGF(50ng/ml)よりも高値を示した。この作用はAutoradiographyや核数の増加でも確認された。 (2)劇症肝炎患者血清中の肝細胞増殖因子(以下hHGFと省略)と病態との関係を検討し、その臨床的意義を探った。hHGF活性は患者の性,年齢,病因予後とは無関係で、また患者血清の生化学検査(GOT,GPT,chE,総蛋白)とも有意な相関は得られなかった。しかしながらhHGF活性は患者の昏睡度と関連して変動し、昏睡度が進行するとともにhHGF活性も有意に増加し、さらに生存例では昏睡度の改善とともにhHGF活性も急速に低下した。このことより、hHGFの出現は生体にとって合目的な反応であると考えられ、さらにhHGF活性は患者のfunctional liver massのparameterと成る可能性が示唆された。 (3)血漿交換療法により得られた劇症肝炎患者血漿を用いて、硫安分画,Affi-gel Blue,heparin-SepharoseによりhHGFを約1万倍に精製した。そのSDS-PageよりhHGFは分子量約8.5万と考えられた。部分精製標品は80℃10分の加熱やtrypsin,chymotrypsin処理で完全に失活した。hHGFはInsulinや、EGFと相加的に作用することから、既知の増殖因子とは異なる蛋白性因子であると考えられる。今後hHGFを完全に精製し、さらに抗体を作成し、産生細胞の同定や測定系の確立などを行っていきたい。
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