研究概要 |
急性肝不全モデル(ラット)を用い、前脳,脳幹,小脳の脳各部位のアンモニア濃度ならびに神経終末シナプトソームの興奮性(Glu,Asp),抑制性(GABA,Gly)神経伝達アミノ酸濃度を測定し、GluとGABAの神経膜への結合能について検討した。また、アンモニア負荷や分枝鎖アミノ酸輸液による変化についても観察し、肝不全時の脳内アミノ酸代謝の異常をより動的に把握しようと試みた。 1.急性肝不全ラットの脳各部位のアンモニア濃度はいづれも血清濃度より高く、とくに前脳と脳幹でそれぞれ対照の3.4倍,4.3倍と著るしい増加を示した。2.シナプトソームの回収率は、7.2-10.1mg蛋白/g脳で、急性肝不全ラットは対照と有意差はなかった。シナプトソーム分画のアミノ酸パターンでは、Glu,GABA,Aspが高く、Gln,Gly,Tauを除く他のアミノ酸はごく微量であった。急性肝不全ラットでは、前脳のGluと脳幹のGABA濃度が低下し、前脳のAsp濃度も低下傾向を示した。一方、Glnは低濃度ながらいづれの部位でも増加傾向を示し、Glu/Glnは低下した。しかし、Glu/GABAや(Glu+Asp)/(GABA+Gly)に有意の増減は観察されず、シナプトソームのGlu脱炭酸酵素活性にも変化はみられなかった。 3.粗神経膜分画とのGluの最大結合数(Bmax)は、急性肝不全ラットの脳幹で低値を示したが、Gluの解離恒数(Kd)やGABAのKd,Bmaxには明らかな変化はみられなかった。 4.酢酸アンモニウム負荷により、Glu/Glnは肝不全時と同様に低下し、BCAA輸液はこれを防止した。シナプトソームの興奮性、抑制性神経伝達アミノ酸濃度の変化は、機能別,選択的低下でなく、脳内アンモニア代謝の異常より惹起された二次的変化と考えられる。シナプトソームにおける高アンモニアイオン濃度のためglutaminase活性が阻害され、Glnからの神経伝達アミノ酸の供給が減少したためと考えられた。
|