研究概要 |
当初の研究計画からは幾分修正を余儀なくされたが, 別紙の業績報告書に示すように3年間の研究計画の大要は全うされた. 即ち, ラット脳での内因性ジギキシン様免疫活性物質(DLI)は視床下部の室傍核と視索上核の細胞体に限局して存在し, その線維は第三脳室周囲を走行して正中隆起の主に内層に分布するが, 外層深くにも達していた. 下垂体後葉にも物質をみとめるが, その量はADHに比べると明らかに少量であった. その他では, DLIは第三脳室の前腹側部(いわゆるAV3V)の特に終板器官に多量集積していた. また, 飲水と関係深い下弓器官にも多量認めた. ウアバイン様物質も同様の部位に存在するが, ジギトキシン抗体では免疫組織化学では染色されなかった. この成績から内因性ジギタリス様物質が視床下部で産生され水電解質代謝に関連すると考えられる部位に神経線維を送っていることから, 血圧調節に役割を演じていると考えられる. この成績はその含量をシゴキシンのRIAで測定して確認し, コルヒチンで神経分泌を抑制すると視床下部内濃度が高まることからも裏づけた. また, 食塩を負荷すると視床下部内濃度が減少し, 尿中排泄が増量することから, ナトリウムが視床下部での交替速度を速めると考えた. AV3V部を電気破壊すると, DOCA-食塩高血圧が有意に抑制され, DLI, ATPase阻害活性物質が減少することから, 内因性ジギタリス様物質が高血圧の発症に重要であることが示唆された. 分泌機構としては, 高張食塩水を脳室内に注入した際にのみ血中DLI濃度が上昇することからNa^+が重要な役割を果たすと考える. ヒトでの検討では, 尿中DLI排泄量が血圧値や食塩排泄量と有意に相関すること, 血中DLI濃度も血圧値と相関することから, 本態性高血圧症の成因としても重要な役割をえんじていることが示唆される. また, 本物質の同定を進めているが, 物質の濃度が低いことから, いまだ, 精製分離するには至っていない.
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