研究概要 |
精神分裂病患者68名(そのうち急性増悪期は20名), 他の精神障害34名, 正常対照者52名についてADPによる血小板凝集検査を行い, さらにこのADP凝集に対するプロスタグランジンE_1(PGE_m)の凝集抑制作用を検討した. その結果, ADPによる血小板凝集能は3群間に有意差はなかった. しかし, 精神分裂病患者, とりわけ急性増悪期ではADPによる血小板凝集反応に対するPGE_1のIC_<50>濃度は他の2群に比し有意に増加していた. すなわち, 精神分裂病急性増悪期では血小板のPGE_1に対する感受性は著明に低下していた. このPGE_1感受性低下は病状の改善と共に正常化した. PGE_1IC_<50>濃度が正常対照者の平均値にその3倍の標準偏差を加算した値以上を異常値と定義すると8名の精神分裂病のみが異常値を示した. 他の精神障害では異常値を示す者はなく, この異常は精神分裂病に特異的所見である可能性を示唆した. すべての急性増悪期の分裂病患者がこの異常を示したわけではないので, PGE_1低感受性を示す精神分裂病患者の臨床特徴を調べた. PGE_1IC_<50>を目的変数とし, 年齢, 性, 病歴, 臨床所見の各項目を説明変数として多変量解析を行った. その結果, PGE_1IC_<50>高値を示した精神分裂病患者は, 入院回数が多く, 入院期間が短く, 発症年齢が若く, 異性関係が比較的良好で, BPRS中の興奮症状群が重く不安-抑うつ症状群とエネルギー減弱症状群が軽く, 陽性症状が著明で, 出産障害の既応歴が少なかった. 精神分裂病患者血小板にみられたPGE_1感受性低下は, 未治療の患者でも服薬中の患者でもみられたので, 抗精神病薬服用の為ではないと考えられる. この異常所見は昭和60年度に報告した精神分裂病患者血小板のPI代謝異常や61年度に報告した血漿中PGE_1免疫活性上昇と何らかの関係があるものと推定された.
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