研究概要 |
炭酸脱水酵素(E.C.4.2.1.1)は活性中心に亜鉛を有する金属酵素で、【I】,【II】,【III】の免疫学的、遺伝学的に異った支配を受けているアイソザイムが存在する。今回原発性アドステロン症患者の赤血球中に新しい不活性型の【I】型アイソザイム(CA-Iと略)の変異酵素を発見し、精製した酵素を用いて基礎的臨床的検討を行った。(研究)原発性アルドステロン症患者から治療前後などの病期ごとに静脈血を採取し、酵素活性を測定するとともに、アイソザイムに対する特異抗血清を用いて酵素量を測定し、更に抗体を結合したアフィニティカラムを用いて真の比活性を求めた。次に赤血球より本酵素を分離精製し、精製した酵素標品を分子量、亜鉛含量、アミノ酸分析、ペプチドマップ、阻害定数、電気泳動上の動態などを明らかにした。(結果)高アルドステロン症患者5名の赤血球中CA-Iは酵素量は正常と同じであったが、活性は低く比活性は1/3に低下していた。抗アルドステロン剤投与や副腎摘出術によって比活性が上昇した。精製した低活性酵素はSDS-電気泳動上差がなく、亜鉛含量も正常であった。阻害剤であるアセタゾルアミドに対する親和性が低下しており、同阻害剤を結合したアフィニティカラムを用いることによって正常酵素との分離が可能であった。アミノ酸分析とSH基の定量によって、グルタミン酸、システィン、グリシンが1個ずつ多く存在すること、ジチオスレイトールによってグルタチオンが遊離したことから、低活性酵素はグルタチオンと結合した変異酵素であることが明らかとなった。グルタチオンは正常酵素には見出されず、低活性酵素1モルより0.74モル測定された。更に(【^(14)C】)-イオド酢酸との結合をジチオスレイトール存在下でみると1個のシスティン残基が反応を示したことからも、低活性酵素はそのシスティン残基が混合ジスルフィドの形で存在し、病期により変化することが明らかとなった。
|