研究概要 |
造血器悪性疾患における染色体分析はしばしば得られる染色体が短かく詳細な分析が困難である。我々はヒト骨髄細胞から十分に延びた染色体を得るため12例の血液疾患材料を用いてethidium bromide(EBr)添加法の基礎的検討を行ないEBrを培養の最後の2時間終濃度10μg/ml加えることにより従来のmetho-trexate(MTX)同調培養に劣らぬ良質な染色体が得られ、昭和60年から造血器悪性疾患についてEBrを用いる高精度分染法により染色体分析を開始した。急性非リンパ性白血病(ANLL)32例における染色体異常は27例(84%)にみられた。EBr添加培養以前に分析したANLL74例の異常率64%に比らべEBr添加による高精度分染法の有用性が示された。FAB分類による病型別の染色体異常は、M1 2/2,M2 5/7,M3 13/14,M4 4/5,M5 2/3,M6 1/1と病型による差はないが、特定の染色体異常(構造異常)と病型の関係はt(8;21)はM2,t(15;17)はM3,inv(16)はM4Eo,t(9;11)はM5に特異的であった。一方、myelodysplastic syndrome(MDS)32例の19例(59%)に染色体異常がみられた。これはANLLにおける異常率よりも低く、5つの病型別の異常率にも差はなかった。MDSにみられる染色体異常(構造異常)は5q-5例,-7または7q-5例,+1q 3例,17p+3例などであるが、これらの異常はしばしば同一例にみられる。またこれらの異常は病型特異性に乏しいことからMDSに共通の異常のように思われる。 これらの結果から、ANLLにおいては染色体分析の精度を上げ、分析細胞数を増やせば大部分の症例に染色体異常が見出されると思われる。一方、MDSにおける染色体異常は高精度分染法を用いても59%と低いことから、MDSには腫瘍性でない血液疾患が混じっている可能性も考えられる。さらに染色体異常に病型特異性がみられないことから、MDSの5つの病型はそれぞれ単一の疾患単位として病態が正確に分類できていないことも考えられる。
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