研究概要 |
肥満度をKaup Indexでみると乳癌群は平均24に対し正常婦人は平均21であり乳癌患者に肥満の傾向がみとめられた。肥満群に高LDH(低密度リポ蛋白)、高SHBG値(Sex Hormone Binding Globulinに対する17β-Estradiolの最大結合容量)の傾向を認めた。free Estradiolの血中濃度は総血中Estradiol濃度とSHBG値に対して正の相関を示した。従って、SHBGの肝細胞での合成がEstradiolによって誘導される事、ホルモン依存性乳癌のSHBG値が高い事等を考えるとホルモン依存性乳癌は高濃度の血中free Estradiolを有していると推定される。手術により切除された乳癌組織では、ras,myc,fos,の三種の癌遺伝子のRNA活性の上昇およびEGFレセプター遺伝子のRNA活性の上昇が認められたが、正常乳腺組織では認められなかった。一方、これらの組織の初代培養では、Estradiolは正常乳腺組織のras,fos,mycの各proto-oncogeneを活性化CmRNA活性)したのみならず、乳癌組織の、ras,fos,mycの各oncogeneおよびEGFレセプター遺伝子の各mRNA活性を上昇させた。MCF-7、人乳癌細胞でも同様の現象が認められた。この細胞の場合Estrogenレセプター遺伝子の活性誘導もEstradiolによってもたらされた。MCF-7人乳癌細胞におけるEstradiolのoncogeneおよびレセプター遺伝子の活性誘導は抗エストロージェンにより特異的に抑制された。これらの現象は細胞の増殖および抑制と一致して認められた。以上の成績より肥満,高LDH,高SHBGを伴うfree Estradiolの増加が細胞のEstrogenレセプターおよびEGFレセプター遺伝子の活性化をもたらし、これらのレセプター系をとうしてEstradiolやEGFの増殖因子がoncogeneを活性化するという発癌のメカニズムが考えられる。又ホルモン依存性乳癌ではEstradiolによるEGF Receptor遺伝子の活性化が認められたがホルモン非依存性と思われる一例ではこれを認めなかった。今後はこの面に関する研究を進める必要がある。
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