研究概要 |
磁性流体は新素材として注目されているが、医学の領域では未だ応用の途は拓かれていない。磁性流体は磁場によって磁化し、形態可変性ならびに復原性という特性を有しており、人工括約筋としての作用への応用に関する研究を行った。 1〔方法〕装具としてはシリコーン製トーラス状バッグ(高研),磁性流体(デキストラン・マグネタイト 名糖産業)およびラジアル方向へ磁力線の放散する強力円筒形磁石(サマリウムコバルト、東芝)を試作した。雑種成犬5頭,ビーグル犬10頭を用いて以下の急性・慢性実験を行った。 2〔基礎実験,急性動物実験〕人工肛門のモデル実験より、トーラス状バッグ内に充填した磁性流体と円筒形磁石の間に働く磁力によって生ずる括約能は10cm【H_2】0/1000Gであった。雑種成犬のS状結腸を用いて人工肛門を遺毅し、シリコーンバッグ内に磁性流体を20ml充填して人工肛門周囲の筋膜間に埋没移植した。表面磁束密度5000Gの磁石キャップにより42cm水柱圧まで耐圧能が付加できた。急性実験では感染を2頭に認めたが他の合併症は認めず、ほぼ満足すべき結果を得た。 3〔慢性実験〕雌ビーグル犬を用いて、従来の方法による人工肛門造設群(第1群3頭),磁性流体を充填したシリコンバッグ内没群(2群3頭) 第2群と同様の処置を行い更に連日8時間磁石キャップを人工肛門内に装着した群(第3群4頭)について、体重,摂飼状況,便性状,等の一般状態および肛門周囲の皮膚の発赤,ビラン更に人工肛門の粘膜の状態,狭窄の有無等について観察した。 4〔結果〕便の排出は強力磁石キャップの使用によって制御可能であった。合併症として感染症や肛門壊死等の重篤なものは経験しなかったが、狭窄例が見られた。病理学的検討よりシリコンバッグを移植した筋膜部の硬化が原因であり、磁性流体を腹膜と筋層の間に移植する手技によって予防できると考えられ、更に追加実験を計画中である。
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