研究概要 |
脂肪の消化吸収障害を呈する病態はしばしばみられるが、アイソトープを用いる吸収試験などは、その取扱いの問題等より制約がある。脂肪酸結合蛋白(以下FABP)は哺乳類の肝や腸組織にあり、アゾ色素,ビリルビン等種々のアニオニック化合物と結合する他、内因性の脂肪酸と強い親和性を有し、腸管においては吸収上皮細胞内での脂肪酸の転送をはじめ脂肪代謝に密接な関連をもつと考えられている。このFABPを消化管手術後などの脂肪吸収障害の解析の一助として利用できないかと考えた。 1.ラット肝上清より精製した肝型FABPを抗原として作製した抗体がヒト腸管組織と免疫交叉性を有することを見出し、これを利用してヒト腸管におけるFABPの分布をはじめて検索した。オクタロニー法及びPAP法で検索すると食道,胃には認められず、十二指腸,空腸,回腸,大腸,にFABPが存在した。その局在は主として粘膜の吸収上皮細胞のみで、絨毛に多く陰窩に少ない即ち腸管腔側に近い程、FABP腸性細胞が増加する傾向がみられた。2.FABP定量をSRID法で行なうと、十二指腸上部では有意に少なく、空腸,回腸,大腸ではほぼ同程度で、空腸でのFABP含量は6.43±1.35μg/mg蛋白であった。3.臨床例で検討すると、正常粘膜に比し、潰瘍性大腸炎や大腸癌腫では減少し、短腸症候群では増加がみられた。術前摂取状況の違いによるFABP含量の違いははっきりしなかった。 FABPはその分布や局在から脂肪吸収に関与しているという考えを支持する知見が得られた。臨床例の検討で、粘膜の傷害によりFABPが減少し、粘膜再生や腸管切除による吸収面積の減少に伴って代償性に増加してくると推定され、脂肪吸収障害時などの病変程度を知る指標になりうる可能性があると考えられた。ヒトで大腸にも多量に存在するFABPの意義は今後更に検討してゆく予定である。
|