研究概要 |
近年の救急医療をとりまく種々の進歩は脳卒中、頭部外傷等の急性期に於ける死亡率を次第に減少させているが、この事は同時に重篤な神経系の後遺症を残して、その後の人生を闘い抜いていかねばならぬ患者の増加をもたらせている。このような背景より、脳神経外科医も従来の如く、疾患の急性期に於ける治療のみならず、慢性期の諸問題にも目を向けねばならぬと考え、後遺症の中でも重篤な症状である片麻痺、遷延性意識障害の治療を開始してきた。その方法として脳脊髄電気刺激法を用い、主として第2頸椎硬膜外にリード線を設置し、刺激を上行させ脳幹網様体を賦活する事を試みてきた。この2年間に得られた結果は以下の如くである。すなわち(1)臨症例は遷延性意識障害例12例に対して脳脊髄電気刺激療法を行った。その結果、3例に臨床的に著効を認めた。(2)12例に於いて脳波上の改善を認めた。この改善とはα波の出現と増加であった。(3)脳脊髄電気刺激療法は局所脳血流量を増加させることを明らかにした。すなわちXenon-CT,Dynamic CT,及びSPECTにより刺激前後の局所脳血流を比較すると天幕上下を問わず20-40%の局所脳血流量の増加を刺激後に認めた。(4)髄液中のカテコールアミン代謝に及ぼす影響の検討の結果は以下の如くである。すなわち、脳脊髄電気刺激前後に於いて髄液中のNorepinephrine,Dopamin,DOPAC,HVA,5HIAA,3MT,5HTを測定したところ、刺激開始後8時間の短時間測定でも、また、刺激開始後3ケ月の長期的なfollow upに於いても、Norepinephrine,Dopamin,DOPAC,HVA,5HIAAが増加を示し、一方、3MT,5HTは減少の傾向を見せた。すなわちこの電気刺激療法にて、カテコールアミン系の代謝が促進されることを明らかにした。
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