研究概要 |
本研究は成人T細胞白血病ウイルス母児間垂直感染の実態及びその予防方法の解明を目的として発足した。当初の計画ではヒトのみならずニホンザルをも対象としたが、捕獲入手困難なため現在まで専らヒトのみで研究が進められてきた。昭和60年及び61年の2年間に、1)ATLA抗体検査法の比較(PA,ELISAWB法),2)沖縄県,岩手県及び千葉県の婦人,特に妊婦におけるATLVキャリアーの疫学的調査,3)ATLV家族内集積検索による垂直感染並びに夫妻間感染状況の検討,4)婦人科悪性腫瘍患者におけるATLV保有率の検討,等を行ってきたが、その成績の概要は以下の如くである。1)PA法とELISA法におけるATLA抗体陽性一致率は86.4%,陰性一致率は100%,合計88.9%の一致率で、WB法による確認テストではPA法で偽陽性率が高い傾向が認められた。又、PA法力価(【2^n】)の上昇と共にELISA法測定値(Cut-off Index)も増加する傾向にあったが、【2^(4-6)】群で75%(8例中6例)に、【2^(12)】を越える群で30例中2例(6.7%)にELISA法陰性はみられた。2)岩手県田野畑村の年令6才-90才の婦人400人におけるATLA抗体保有率は7.3%で、加令と共に上昇し、80才以上では33.3%(12例中4例)に達した。3)沖縄県石垣島,岩手県(釜石市、大船渡市)及び千葉県(HBsAgキャリアー)における妊婦のATLA抗体保有率はそれぞれ6.9%,5.9%,及び0.8%であった。4)ATLVキャリアー妊婦の出産の出生児9名においてATLA抗体の消長を検索したが、2名の児を除いて臍帯血より陽性を呈し、以後加令と共に漸減し、生後6ケ月まで陽性が維持された。5)ATLA抗体陽性妊婦7家族におけるATLA抗体保有率は59.2%(49例中29例)の高率で、特に母(80.0%),祖母(66.7%),及び同胞(68.4%)で極めて高い陽性率が得られた。6)千葉県における子宮頸癌45症例,卵巣悪性腫瘍30症例の計75症例においてATLA抗体陽性者は一例も検出されず、悪性腫瘍とATLV感染との相関は得られなかった。
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