研究概要 |
子宮頚癌には腺癌と扁平上皮癌のほかに両者の中間的性格を有する混成癌(mixed carcinoma)が約5%位に認められる。また本腫瘍の予後も腺癌同様不良であることが注目されている。現在本腫瘍に対する診断基準の確立と組織発生が議診の対象となっている。今回の研究はこれらの点をふまえて、子宮頚部の良性病変、子宮頚癌初期例及び進行例、過去に経験した典型的な混成癌10例について粘液組織化学的,電子顕微鏡的,酵素組織化学的に研究を行った。先ず良性病変について子宮頚部円柱上皮を被覆上皮、頚管腺のcleft部の上皮、頚管腺部の上皮の3型について見ると、とくに慢性刺激が加わっている状態において被覆上皮が性格を変えて類内膜腺上皮に近い形態を示し、外向性乳頭状増殖を示すものがあること、一方粘液腺は間質深部に向かって深く延長進入するものが見られた。またcleftの上皮では円柱上皮でありながら厚味を有する扁平上皮的性格を示すものが混在して認められた。また混成癌の初期例に遭遇し、その初発部位はcleftの上皮であることを確認することが出来た。また典型的混成癌の検索から、上皮の刷子縁のみに粘液が陽性で細胞質が透明調のつよい腺扁平上皮癌と、細胞質が顆粒状びまん性に粘液染色陽性を示す粘液扁平上皮癌と区別することが出来た。電子顕微鏡的にこれら癌細胞にみられた特徴を良性病変のcleft部の細胞に確認することが出来た。すなわちケラチン粘液空胞を有する粘液扁平上皮的細胞と粘液空胞の乏しい腺扁平上皮的性格を有する両者の細胞がcleftに存在した。以上の成績及び臨床的事実をもとに、混成癌の発生母地を推定すると頚管腺のcleftが母地として最も有力と考えられる。また細胞の性格から、類表皮的性格をよりつよく呈したものが粘液扁平上皮癌、円柱上皮的性格を呈したものが腺扁平上皮癌と考えられ、予後の比較では後者が不良であり、このような区別は臨床的にも有用であった。
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