研究概要 |
ヒト胎児の心拍数変動を司る中枢神経系の制御機構の分化および成熟過程を解明する目的で, われわれは独自に考察した数理モデルを用いて解析を行った. ここに, ヒト胎児における心動作の一同期毎に得られる一群の瞬時心拍数並びは数列であるとみなして, 心拍数絶対値とそれの次の-への変化分を各々, 行と列にもつマトリックスを設け, 個々の症例から求められる行列の要素内の度数を指標として, 因子分析法によって検討を加えた. その結果, 正常胎児においては心拍数絶対値によって律則されるBasul heart ratesは相互独立の5個のものが存在し, それらは妊娠28-30週, 妊娠32-34週および妊娠35-36週辺りを臨界期として, 妊娠早期では1個であったものが, これらの時期を経る度毎に次々と出現してくることが分った. この現象は能脱の症例の場合は正常例と同様の推移であったが, 無脳児では認められないことから, これらを制御する中枢神経系の解剖学的な部位は橋より上位に存在することが示唆された. 一方, 心拍数の一拍一拍の変動, すなわち, Beat-to-beat difference(BBD)の同様の検討から, BBOには互いに独立の3個の生体機構が関与していることも明らかとなった. それらは心拍数変動に対して, 「加速」「減速」および「ゆらぎ」の作用効果を有し, 前二者は各々, 交感, 副交感神経系の機能の発現であると考えられた. さらに, 洞頻脈や完全房室ブロックを示す胎児の妊娠の進行に伴う心拍数の推移から, 前後者は各々心伝導系の機能の未熟性および器質的な障碍によることも分った. また, 子宮内発育遅延症の胎児では, Basal heart ratesに対応する因子軸(機構)が減少すると同時に, 状態の軽重に応じて「加速」および「減速」の表現が消失することも判明した. このような成績を参照すれば, 病的な逸脱過程における心拍数制御系の特徴をコンピュータ・シミュレーションによって解明できることが示唆された.
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