研究概要 |
着床には受精卵と子宮内膜の凝固線溶系が関与することが示唆されているがその詳細は不明である. 本研究では受精卵と子宮内膜のプラスミノゲンアクチベータ(PA)活性を正常妊娠マウス, 片側卵管結紮マウス, 着床遅延マウス(プロゲステロン及びエストロゲンにより着床時期を人為的にコントロール)を用いて測定し, さらに凝固線溶系変動薬剤投与などの方法を用いて着床における凝固線溶系の関与とその調節機序を解析した. 1)マウス受精卵のPA活性は, 受精後72時間の胞胚期でピークを示し, 着床直前(day4)にはPAインヒビターを放出することが明らかとなった. すなわち, 受精卵の発育・成熟に線溶系が密接に関与することが示された. 2)子宮内膜のPA活性は受精卵が存在しない場合はday4でピークとなるが受精卵の存在により, そのピークは消失することが示された. すなわち, 受精卵と子宮内膜の線溶系の相互作用が卵の初期接着に重要であることが示された. 3)遅延着床マウスにおいて性ホルモンが線溶系に与える効果を検討したところ, プロゲステロン投与によって子宮内膜PA活性は低下して受精卵は着床せず, エストロゲン投与によって子宮内膜PA活性は上昇し, 受精卵の着床が誘導されることが明らかとなった. すなわち, 性ホルモンによる子宮内膜のPA活性の変化が着床機序に重要な意義を有することが明らかとなった. 4)着床時に凝固線溶系変動薬剤を投与し, 卵の配列及び発育を検討したところ, 線溶抑制剤により卵の子宮内輸送が妨げられ, 線溶亢進剤により卵の配列が乱れ, 凝固亢進剤により卵の発育障害が認められた. すなわち, 着床時子宮内膜の凝固線溶系は卵の輸送, 配列及び着床後の卵の発育に関与していることが示された.
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