研究概要 |
純Niと市販卑金属合金試料をラット皮下組織に埋入し、それから周囲組織におよぼす影響を病理組織学的、定量的、定性的に検索した。純Ni試料周囲の皮下組織は、埋入後7日目より壊死や組織溶解が生じ、著しい炎症がみられた。埋入後30日目以降では、試料周囲に組織溶解層がみられ、その周囲には、炎症性細胞浸潤を伴う線維性結合組織が認められた。それらの組織から多量の【Ni^(2+)】が測定された。市販卑金属合金試料周囲の皮下組織は炎症性細胞浸潤がほとんど認められず、薄い線維性結合組織を呈した。それらの合金周囲の皮下組織からもわずかに【Ni^(2+)】が測定された。その量は組織に変性を起こす濃度以下で微量であった。【Ni^(2+)】,【Co^(2+)】,【Cr^(6+)】の金属イオンを各濃度に調整したMEM培養液中が線維芽細胞を培養し、経時的に細胞数を算定し、光顕と電顕による形態観察を行い、組織培養にて【Ni^(2+)】,【Co^(2+)】,【Cr^(6+)】の細胞毒性を評価した。【Ni^(2+)】では、25μg/ml,50μg/mlの濃度で、埋入後2日目より細胞の変性が認められた。【Co^(2+)】では、50μg/ml,25μg/ml,12.5μg/mlの濃度で、それぞれ埋入後1日目、2日目、4日目より細胞の変性が認められた。【Cr^(6t)】では、1.0μg/ml,0.5μg/mlでそれぞれ埋入後1日目、2日目より細胞の変性が認められた。【Ni^(2t)】,【Co^(2t)】,【Cr^(6t)】共に細胞の変性が生じると経時的に細胞数の減少がみられた。毒性の強さは、【Cr^(6+)】が最大で、次いで【Co^(2+)】,【Ni^(2+)】の順であった。走査型電子顕微鏡観察より、【Ni^(2+)】イオンは線維芽細胞に作用して、細胞の微細な絨毛状突起を収縮させ、一部でその突起を分断し、さらに細胞質の萎縮を引き起こし、細胞膜の崩壊を招いた。また透過型電子顕微鏡観察より、細胞崩壊の一過程には、rERの分断が何らの関与を示していることが観察され、細胞内反応の今後の解明が待たれる。金属イオンは、細胞質のrERに何らかの作用をしている可能性が示唆された。
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