研究概要 |
口腔癌手術後で切除範囲が広く, しかも鉤歯による維持が不十分な症例などにおいては安定した顎補綴の製作は容易でなく, このような症例の顎補綴物の維持, 安定を図ることはリハビリテーション上の重要な課題の一つとなっている. そこで, 口腔癌手術後の顎補綴難症例に応用するために3種類のアパタイト・チタン複合体人工歯根を考案, 試作し, 動物実験により組織学的に検討した. この中では2ピースタイプ, 円柱型人工歯根が最も良い成績を示し, 埋入1か月から3か月目には, アパタイト表面と新生の線維骨との直接結合 (骨性癒合の像)が見られ, さらに7.5か月から1年目になると, アパタイト表面と新たに形成された層板骨との骨性癒合の像が認められた. 人工歯根の周囲粘膜および粘膜下組織の一部には上皮の深行増殖, 病的ポケットの形成などの所見が見られたが, 人工歯根の穿孔部周囲の鼻腔底, 上顎洞粘膜には炎症などの異常所見は認められなかった. これらの基礎実験の結果に基づいて, 2ピースタイプ・円柱型人工歯根を口腔癌治療後の3例の顎補綴難症例に対する臨床応用をおこなった. 2〜3本のフィクスチャー埋入後, 約3か月後に支台部の設置を行ったが, この際, 全てのフィクスチャーで臨床的にosteo-integrationが認められた. 上部構造はオーバーデンチャータイプとし, 人工歯根と上部構造との結合様式はOPアンカータイプのアタッチメントで, 特殊ゴム製のOリングとラバーキャップからなる緩圧機構を内蔵させた. 補綴物の機能検査としては咀嚼能力検査を行い, 山本の咬度表を用いて問診を行い, 摂取可能なものにより段階評価を行い, この結果, 補綴物の維持, 安定性の改善とともに, 全ての症例において1〜2段階の咀嚼能力の向上が認められた. これらのことは, 2ピースタイプ・円柱型アパタイト・チタン複合体人工歯根の顎補綴への応用の可能性と有用性を示すものと考えられた.
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