研究概要 |
小児では唾液分泌が活発であるのに対して老人になると唾液分泌量が少なくなるという唾液分泌機能にみられる加齢的な現象を生態学的に追求し以下の結論を得た. 1.正常者573名(5〜82歳)の唾液分泌量と年齢の関係を調べた結果, 唾液分泌機能は10歳代に最も活発となり,その後加齢とともに唾液分泌量が減少することがわかった(r=-0.64). またラットでは各週齢における唾液分泌量やピロカルピンに対する唾液分泌の反応性の結果から, 7週齢頃に唾液分泌が活発になると考えられた. 2.改良した相対粘度計で唾液粘度を測定した結果, 耳下腺唾液で1.04cP, 混合唾液で平均2.36cPであり, 耳下腺唾液の粘度は混合唾液に比べて有意に低かった. また唾液分泌量と唾液粘度の関係を調べた結果, 相関係数r=-0.44となり唾液分泌量が少なくなると唾液粘度が高くなる傾向がみられた. したがって, 唾液分泌量が少なくなるのは, 主として耳下腺唾液の分泌が少なくなって唾液粘度が高くなると考えられた. 3.ラットに唾液分泌亢進物質を投与して唾液分泌量とともに自律神経系の酵素であるコリンエステラーゼ(ChE)活性を調べた結果, 有機リン化合物投与ではChE活性の阻害とともに唾液分泌量が増加したが, ピロカルピン投与ではChE活性に影響することなく唾液分泌量が増加した. 一方ヒトでは唾液分泌量と血液ChE活性の関係を調べた結果, 有意な関係が得られなかった. また加齢とChE活性の関係では, 男性では加齢とともにChE活性が低下する傾向が認められたものの女性では有意性が認められなかった. このことよりChE活性は唾液分泌に関与する1因子であるが, 加齢的な唾液分泌機能の低下に直接影響するものでないと考えられた. 以上のことよりラットとヒトにおける唾液分泌機能への加齢の影響が明らかとなり, 加齢とともに主として耳下腺唾液の分泌が少なくなって唾液量が減少し, 唾液の粘性が高くなることが示された.
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