研究概要 |
ペニシリンやセファロスポリンなどのβ-ラクタム系抗生物質は、細菌に対してのみ高い選択性を示すため副作用が少なく、今日の化学療法剤の主流をなす重要な医薬品である。しかし、これらのβ-ラクタム系抗生物質に対する耐性菌の出現が医療上の大きな問題となっている。著者らは、ペニシリン耐性菌対策の一つの試みとして、ペニシリン環7位を選択的に化学修飾した化合物、7位環元型ペニシリン(【〜!1】),7位スピロオキシラン型ペニシリン(【〜!2】)や7位エキソメチレン型ペニシリン(【〜!3】)を合成し、それらの抗菌活性やβ-ラクタマーゼ阻害作用を調べる目的で本研究を行った。なお、これらの化合物のうち、(【〜!1】,R'=H)と(【〜!2】,R'=H)はβ-ラクタム環カルボニル炭素をS【P^3】炭素に変換したものであり、ペニシリンが細菌の細胞壁合成酵素阻害作用を示す際の遷移状態類似体と見なされる。 ペニシリンのβ-ラクタム環カルボニル基は、アミドカルボニル基としては、非常に高い化学反応を示す。すなわち、カルボニル基としての本来の性質を具備している。それ故、β-ラクタム環カルボニル基の選択的な化学修飾はカルボニル基反応試薬を用いることにより達成できると考えられる。そこで、ペニシリン(【〜!4】)と種々のカルボニル基反応試薬との反応を詳細に検討した。その結果、7位還元型ペニシリン(【〜!1】)と7位スピロオキシラン型ペニシリン(【〜!2】)の合成に関しては、用いた条件下での反応中間体の不安定性のために、その目的を達成できなかったが、7位エキソメチレン型ペニシリン(【〜!3】A,R'=H)と(【〜!3】,R'=H)を合成することができた。また、本研究の途上、光学活性物質の合成中間体として利用可能なアルコール体(【〜!5】)と硫黄イリド(【〜!12】)の簡便な合成法を確立することができた。なお、得られた7位エキソメチレン型ペニシリン(【〜!3】,R'=H,Z-異性体)には、弱いながら、β-ラクタマーゼ阻害活性が認められた。
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