研究概要 |
1.水晶体、末梢神経など糖尿病合併症が起る組識にはアルドースレダクターゼ(AR)が存在する。糖尿病になるとその酵素の作用によりソルビトールが組織に高濃度に蓄積することが、合併症の成因の一つと考えられている。そこで、合併症抑制薬としての強力なAR阻害剤の開発が望まれている。 申請者が開発し、すでにin vitroにおいて強いAR阻害作用を示すことがわかっている7種の1-(Arylsulfonyl)hydantoin類を、ストレプトゾトシン注射により発症させた糖尿病ラットに経口投与(50mg/kg/day)して、水晶体およぴ坐骨神経中のソルビトール蓄積に対する抑制効果を調べた。1-〔(2,4,5-Trichlorophenyl)sulfonyl〕hydantoin(Tri-Cl-PSH),1-〔(2,5-Dichlorophenyl)sulfonyl〕hydantoin(Di-Cl-PSH),および1-〔(β-Naphthyl)sulfonyl〕hydantoin(β-NSH)の3種の化合物が特に強い蓄積抑制効果を示した。しかし、Tri-Cl-PSHには毒性があるように思われた。また、β-NSHは経口投与(25mg/kg)で正常家兎の血糖を有意に低下させたのに対し、Di-Cl-PSHにはその作用はなかった。さらにDi-Cl-PSHおよびβ-NSHを前記と同様に糖尿病ラットに経口投与して、尾部の末梢運動神経伝導速度の改善効果を調べたところ、Di-Cl-PSHよりβ-NSHの方がわずかながら効果が大きかった。以上の結果から、β-NSHは糖尿病合併症抑制薬として有望な化合物であると考えられる。 2.糖尿病状態における種々のタンパク質の非酵素的グリコシル化の亢進が合併症のもう一つの有力な成因と考えられている。そこで、ヒト血清アルブミンをモデルタンパク質として、グルコースによる非酵素的グリコシル化を抑制しうる化合物の開発に着手した。とりあえず、アミノ基あるいはカルボニル基を有する15種の化合物について抑制効果を調べたところ、DL-グリセルアルデヒドとピリドキサール-5-リン酸が20%以上の抑制効果を示したのみで、より強力な化合物の開発を要する。
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