研究概要 |
ジョロウグモ毒腺中にグルタミン酸レセプターを極めて特異性の高い阻害物質が存在することが報告されている。そこで本研究者は大量に採取されたクモから当該活性物質を単離、精製を行い、さらにその性質およびその作用機序などについて検討を加えた。 ジョロウグモの毒腺から当該活性物質を0.3%食塩水で抽出したのち、ゲル濾過,イオン交換および逆相系(ODS)高速液体クロマトグラフィーを用いて精製を行ったところ、最終、約300倍程度精製されたクモ毒標品を得った。本活性物質は分子量が約560前後、一級アミノ残基を有する低分子化合物である。また、6N塩酸存在下,105℃,18時間酸加水分解したのち、TMS誘導体化し、ガスクロマトグラフィー・マススペクトロメトリーにより調べたところ、本活性物質は24-dihydroxy phenylacetic acid,asparagine,Cadaverineおよび質量418(TMS化体として)の未知成分により構成されたものである。本物質も、すでに明らかにされた他のクモ毒と同様,2.4-dihydroxy phenylacetyl-asparagineという共通構造を有している。次に本活性物質の共通構造の一部を化学合成し、ラット脳シナプス膜に対する作用を調べたところ、合成標品は上記で精製されたクモ毒と同程度の作用を示した。このことからクモ毒の共通部分がクモ毒の活性発現に重要な役割を果していることを示唆する。また、その作用機序はグルタミン酸レセプターの構成々分の一つであるグルタミン酸結合蛋白のグルタミン酸結合部位への直接作用によるものと考えられる。精製されたクモ毒を用いて、ラット脳から調製されたシナプス膜への結合量を調べると、膜蛋白1mg当り,105f moleを結合していることが判明した。また毒腺中にチカイエカ幼虫などに対して殺虫効果を持つ物質が存在することを見い出し、農薬としての利用性が期待される。
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