研究概要 |
本研究においては血液脳関門の透過性亢進の指標となる物質の選択から始めた。まず高分子化合物のデキストランを微量定量が可能なようにフルオレスセインでラベルし、その生体内濃度の定量法を開発した。つぎにこの化合物を用いて電撃と炭酸ガス吸入による分子量の違いによる透過性の変化を調べてみた。その結果電撃では分子量150,000のデキストランでも脳内濃度の有意な増加が認められた。脳内の部位による透過性の違いもあり、小脳では大きく中脳および間脳では少なかった。炭酸ガスの吸入による実験では炭酸ガスの濃度によって透過する分子量も違い、40%の炭酸ガスを40秒間吸入させると分子量70,000のデキストランまで脳内濃度が増加した。しかし分子量150,000のデキストランは小脳でのみ有意に増加した。極性の高い4級アンモニウム化合物の6-ハイドロオキシドパミンは静脈内に投与しても脳内のノルエピネフリンは変化しないが、電撃や炭酸ガスの吸入と併用すると脳内ノルエピネフリンが有意に減少した。減少の程度は電撃の方が強かった。ジアゼパムはマウスにおいて睡眠を起こすには10mg/kg以上の量を必要とするが電撃や炭酸ガスの吸入を併用すると1〜2mg/kgの少量で睡眠を起こした。ジアゼパムは血液-脳関門を容易に透過する物質と考えられているが電撃や炭酸ガス吸入により脳内濃度がそれ以上に増加することを示唆している。マウスに電撃を加えると全身血圧は急激な上昇と下降に続いて緩やかな上昇が見られた。電撃による血液-脳関門の透過性の亢進の機序として1)電流による細胞膜の一時的な機能障害、2)血圧上昇のよる血管透過性の変化、3)けいれんに付随する呼吸困難による無酸素症または高炭酸血症などが考えられる。抗てんかん薬であるフェニトインを前投与すると電撃の効果が消失するしかし、血圧の変化はみられれないことから1)と3)の可能性が示唆される。
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