研究概要 |
著者は内皮細胞による血管収縮性のオンライン制御機構について主として二つの観点から研究を行い、本分野の初期の段階から報告してきた(Vasodilatation,ed.P.M.Vanhoutte et al.,P.P.231〜241,1984)。それは1)内皮機能は多様性に富み血管収縮性制御についても弛緩・収縮の両面性を考えねばならぬ事、2)血液(成分)-内皮-血管平滑筋の連鎖機構が血管収縮性を定める要因として重要であることの指摘であった。この基本的考えは今日広く認められるようになった。著者は本研究課題の遂行中途にして帝京大学より静岡薬科大学教授として転任した。著者の担当する講座は循環系薬理学の研究を続行するための設備および研究協力者は皆無で苦難の日々であった。しかし本科学研究助成に鼓舞され以下の成果をあげ得た。 1)血液成分、特に赤血球および溶血成分や酸化ヘモグロビン(OxyHb)による筋原性トーヌス(myogemic tone)の著るしい増強反応は内皮依存性にCaチャネルの活性化を介していること。 2)この増強作用はCa拮抗薬で有効に抑制されること。 3)脳血管内外腔を分離した潅流標本において、赤血球溶血成分やOxyHbを外腔から与えても内皮を介する収縮反応を誘起しうること。 4)新規に開発した螢光分光光度計を用いて脳血管収縮と細胞内【Ca^(2+)】濃度を【Ca^(2+)】指示薬fra2/AMを用いCaトランジェントとして同時測定した。収縮力とトランジェントはOxyHbや種々の刺激でほぼ同一の時間経過をたどって増強された。 5)アドレナリン【α_1】作用による血管収縮反応の内皮剥離による増強は内皮由来物質の【α_1】アドレナリン受容体への作動薬の結合低下を誘起している可能性を示唆した。これらの成果は日本薬理学総会シンポジュウム(昭和61年4月新潟)および日本脈管学会シンポジュウム(昭和61年10月)において血管収縮性と内皮機能について招待講演を行った。さらに論文として報告あるいは印刷中である。今後さらに内皮由来物質の同定、さらにCaトランジェトと収縮の同時測定の改良をめざす。
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