研究概要 |
ラット直結腸吸収を中心に吸収促進剤の作用機構を細胞間と細胞内の両ルートから検討した。細胞間ルートの変化に関しては、Na-Kポンプ阻害剤のウアバイン,ジギトキシンにより阻害される水の吸収増大及びこのルートを膜水路と考えたときの細孔サイズの拡大作用が示された。このルートの促進剤には、EDTA,タウロコール酸(TC),中鎖脂肪酸,オレイン酸+TCから成る混合ミセル等が挙げられ、カプリン酸(C10),ラウリン酸(C12)及び混合ミセルは低濃度でも有効な効果を示した。アンチピリン(AP),フェノールレッド,セフメタゾール(CMZ)及び高分子物質イヌリンがこのルートにより吸収増大されることが示され、in vitroサック法から求めた増大後の細孔サイズはイヌリンの透過を可能とする大きさであった。また腸管血管同時灌流法の結果から、上記の水の吸収増大は、吸収部位の血流増大と関係していることが示された。細胞内ルートの変化はラット空腸刷子縁膜(BBM)小胞を用いて、蛍光偏光解消法による膜流動性等の変化及びBBM小胞に封入した6-カルボキシフルオレセイン(CF)の放出性から検討した。サリチル酸,中鎖脂肪酸のカプリル酸(C8)は主として膜タンパクへの作用を、C10及びC12は膜タンパク,脂質の両部位に作用し流動性等の変化を誘起し、CFの放出性を高めていることがわかった。またCFの放出量はC10,C12の場合の方がサリチル酸,C8よりも大であり、in situ系の吸収促進作用の結果を反映していた。ジエチルマレイト(DEM)はAP及び水の吸収は増大させるが、ウアバインによる抑制はなく、細孔への作用もないことから細胞内ルートへの作用が予想され、現在なお検討中である。以上の結果から、強い促進作用は、両方のルートに及ぼされると考えられる。今後は細孔内の荷電や血流等の影響を考慮したより生理学的な膜透過機構の検討が必要である。
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