研究概要 |
ラットを用いた記憶に関する行動薬理試験法の確立を目的とし、1)各種の方法で遅延弁別反応の形成確立を試みた。2)次に、この反応に対するscopolamine等の薬物効果について検索した。3)さらに、遅延弁別反応の確立したラットの脳室内にアセチルコリン神経毒とされているAF64Aを投与し、その後の遅延弁別反応を観察した。1)においては2個のレバーのついたオペラント実験箱とY迷路の事態でそれぞれ遅延弁別反応を形成した。いずれの事態でも左右2個のランプのうち、いずれか一方の点灯を弁別刺激として用い、消灯直後にさきの点灯側へのレバー押し反応ないし走行反応を餌強化した。点灯側への反応を正選択反応とし、これが安定して80%以上になったところでテストを行った。ここでは消灯後の遅延時間を0,2,4,8秒と各種条件について与え、点灯側への選択反応の割合を指標としたところ、いずれの事態でも0および2秒で80%以上の選択反応の割合を示し、以後遅延時間の増加に伴ってその割合は減少した。2)scopolamine 0.06mg/kg,sc,physostigmine 0.06mg/kg,scは0秒を含む各種の遅延時間での割合を減少させた。3)Y迷路事態での遅延弁別反応の形成確立したラットにおいて、生理食塩水を脳室内に投与した場合遅延弁別反応に変化はみられなかったが、AF64Aを投与した大部分のラットで、遅延時間0秒のみでもさきの割合は減少し、この状態は投与2週間以上経過しても回復しなかった。1頭のラットの0秒での割合は80%以上であったが、各種の遅延時間についてのテストでこのラットは2秒以上で80%以下の値を示した。以上の研究結果の結論としては、今回用いた遅延弁別反応によりラットでも短期記憶の一側面についての薬物の影響を検索できること、AF64Aは持続的に学習記憶に対する障害効果をもつことが示唆された。しかし、これらの障害の回復にどのような薬物が改善効果をもたらすか等については今後の課題として残された。
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