研究概要 |
膵癌胎児抗原(POA)に対する抗体が膵癌診断に有用であることは周知のことであるが、この抗体をモノクローナル化することによって、抗体供給面からはより安定した供給が可能となり、診断的価値としては検査値が一定するという利点が生じてくる。本研究では、従来ウサギに免疫して抗体を得ていたのをハイブリドーマの手法を用いてモノクローナル抗体の形にし、その特異性を検討して将来のキット化に向けての基礎資料を得ることに主眼をおく。昭和60年度中にELISA用の1次抗体をモルモットに免疫して作製し、また胎児膵および膵癌患者腹水の粗分画を抗原としてモノクローナル抗体の作製を行った。スクリーニングの過程で膵癌患者腹水由来の抗原に対する抗体も十分本研究の目的に合致することが判明し、これらの中からPM4という抗体を選んで以下の結果を得た。昭和61年度に各種癌患者約250名について血清中の抗原陽性率を、正常人の示す値の平均値+2SDを一応のカットオフ値として算出した。その結果、食道癌33.6%,胃癌56.7%,結腸,直腸癌58.0%,膵臓癌72.7%,肝臓癌68.8%,胆のう癌55.6%,肺癌53.8%,悪性リンパ腫55.0%,急性骨髄性白血病62.5%,骨髄腫50.0%の陽性率を得た。また胃癌でみると、【I】期の35.0%から【IV】期の74.4%と陽性率の上昇がみられた。ただ、慢性膵炎,肝硬変,慢性関節リウマチなどの非癌疾患でも陽性を示す例がみられ、これらの疾患についてはこの抗体による癌の診断が困難な場合があった。しかし、既存の腫瘍マーカーであるCEA,フェリチン,AFP,CA19-9などとの相関は低く、またこの抗原自身前記4者の他にTPA,【β_2】ミクログロブリンなどとは異なる物質であることから、これら既存の腫瘍マーカーとの組み合わせによって診断能の向上が期待できる。今後は今回成功しなかったdouble determinant assayも含めて、再度抗体作製にとりかかる予定である。
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