研究概要 |
昭和60年度の継続として今年度に得られた研究実績は以下のとおりである。 1.解離現象の研究は、化学と熱力学・分子運動論との相互連関を認識する上での当時における主要な環の一つであった。この熱力学的取扱いに関して、ヨーロッパでは独立していくつかの等価なレベルの成果ーJ.ムティエ,ペスラン,C.M.グルベル,A.ホルストマン等のーが生み出されていた。これらは、不均一系の解離反応に関して蒸発過程との実験上の類似性の発見ードブレ,ホルストマンによるーを直接の契機としていた。 2.解離過程と蒸発過程との分子運動論的アナロジーは、均一系(気体)の解離について平衡状態の動的な分子論的解釈に有効に機能した(プファウンドラー)。 3.ホルストマンの1873年における解離平衡論はそれらの成果を踏まえ、かつエントロピー増大の原理に基礎づけられた名実ともに化学熱力学成立の端緒を築いたものである、と評価される。 4.化学親和力の研究は、質量作用の法則の発見(グルベル,ヴォーゲ)等の成果につながったが、それ自体は化学熱力学の成立の事後に熱力学的基礎づけを受けとった。 5.化学熱力学の成立は、熱力学の発展としてのその解析化の進展として現われ、化学熱力学における解析的方法ー熱力学的関数の利用ーの確立に結びついた。一方ファント・ホフは希薄溶液の熱力学的考察に循環過程(サイクル)の方法を適用し、化学熱力学の方法に豊かな内容をもたらすことによって化学熱力学の成立に重要な寄与をなした。 6.以上の成果は、ド・ドンデによる化学反応の非可逆性の熱力学的取扱いのうちに利用され(1922年)、非可逆過程の熱力学の成立の端緒を与えるものとなった。なお、化学熱力学成立の技術的基礎に関する具体的資料の調査・検討、ギッブス理論の受容過程、電気化学の位置づけ等は、引続き本研究の課題として対象とされる予定である。
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