研究概要 |
ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)は一般にアロステリック酵素として知られているが、その調節因子は生物種によって多様性に富んでいる。本研究はこの多様性の分子的基盤の解明と調節能の人為的改変を目的とするものである。以下に成果の概要を記す。 1.ラン藻から本酵素の遺伝子PPCを、トウモロコシから本酵素のCDNAをクローン化し、塩基配列を決定した。これによって、先にクローン化していた大腸菌のPPCと合わせて3つの本酵素遺伝子を取得した。 2.これら3つの生物種のPEPCは互いに調節能を異にするが、それらの一次構造を比較すると、ホモロジーの程度はC-末端側の半分で高く、N-末端側の半分で低かった。このことより前者が触媒機能,後者が調節機能に関与している可能性が示唆された。 3.ラン藻PPCによって大腸菌内で合成されたPEPCを均一精製し、アミノ酸組成、N-末端配列を決定し、DNA塩基配列の正しさを裏づけた。 4.大腸菌酵素を用いて、触媒機能に必須のシステイン残基は568番目のものであることを化学修飾の手法で明らかにした。 5.大腸菌遺伝子のStuIおよびSac【II】部位(それぞれ344および670番目のアミノ酸に対応)に種々の欠失を加えた実験の結果、これらの部位は触媒および調節機能に直接関与していないことが示唆された。 6.大腸菌とラン藻PPCの間で継ぎかえたキメラ遺伝子を3種類作成し、それらのPEPCの諸性質を調べた。その結果、大腸菌のアロステリックな制御能はN-末端側の半分によって担われている可能性が示唆された。 7.N-末端側をラン藻,C-末端側をトウモロコシ由来とし、相同な部位で継ぎ換えたキメラ遺伝子を作成したが、大腸菌内でPEPC活性はみとめられず、蛋白も蓄積されなかった。
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