研究概要 |
抗シスタチンS抗体との反応性を指標として、唾液を分画し、8種のシステインプロテイナーゼインヒビターを得た。これらN末近傍のアミノ酸配列を調べたところ、唾液中のシスタチンS様インヒビターの多様性の原因はN末が不揃いであることと、分子間にアミノ酸置換が存在するためであることがわかった。シスタチンSに対してアミノ酸置換の認められた2つのインヒビターを、それぞれ、シスタチンSN,シスタチンSAと命名し一次構造の解析を行なった。シスタチンSNは113残基のアミノ酸より成りシスタチンSに対して10残基の置換がある。シスタチンSAはシスタチンS相当部位113残基について10残基の置換がある他N末側に4残基の延長がある総残基数117のインヒビターであった。シスタチンSNとシスタチンSAの相同率も約90%に達する。精製した8種のインヒビターについてフィシン,パパイン,ジペプチジルペプチダーゼIに対する阻害定数を求めたところN末部分の欠落したインヒビターは高い【K_i】値を示し、阻害能力が弱い。従ってシスタチンSのN末近傍の配列が阻害活性発現に寄与している可能性がつよい。シスタチンS,SN,SAの上記酵素に対する阻害定数は異なっており、置換残基も活性に影響を及ぼすと考えられる。 シスタチンS様インヒビターの口腔内存在意義を探るため、歯垢懸濁液を好気培養し、乳酸,酢酸産生量を比較した。インヒビター存在下では非存在下に比べて酸産量が減少し、インヒビターが抗菌的に作用していることが示唆された。 シスタチンS抗原は、唾液以外に精液,涙液に検出された。これら体液中での存在意義としては、組織損傷時に放出されたリゾゾーム酵素や、外因性のウィルスやバクテリア由来の酵素から自己組織やタンパクを護ること、また内因性酵素作用の制禦が考えられる。
|