研究概要 |
われわれは先にマウスとラットの血清中に二つの新しいプロテアーゼインヒビターを見出し, コントラプシンおよびムリノグロブリンと命名した. 両者はこれまで報告された哺乳類の血清プロテアーゼインヒビターの何れとも異なった性質を有しており, しかも血中濃度は比較的高い(2〜14mg/ml). したがって, 血液凝固, 線維素溶解, 補体活性化, 炎症時などに大切な役割を演じていることが予想される. しかしながら, これら二つのインヒビターは齧歯類以外の血漿中には発見できなかった. その後, コントラプシンはヒトα_1-アンチキモトリプシンの相同の蛋白質であることが分かった. が, 活性中心部位のアミノ酸配列は大きく異なっており, コントラプシンとα_1-アンチキモトリプシンのプロテアーゼ阻害スペクトルは全く異なっていた. つまり, 両者は共通の祖先遺伝子に由来しながら, 進化の過程でその性質を大きく変えてしまった蛋白質であることが分かった. ついで, 齧歯類以外にムリノグロブリンと同様の活性をもつ血清蛋白質が存在するかどうかを調べてみた. 調査した十数種類の哺乳動物の血清のなかで, ヒトとウサギの血清中に同様の活性を示す蛋白質を見出した. これら蛋白質はムリノグロブリンとは異なり, 分子量は約5〜6万であった. そしてその性質を調べたところ, ウサギにおいて以前にα_1-アンチトリプシンS型として報告されていたものと同じであることが, 判明した. そのトリプシンとの結合様式は, 今まで考えられていたものと異なり, 活性中心部そのものには結合せず, その付近に結合する. そのため, 蛋白質のような高分子基質を用いた場合, にはトリプシンのアシダーゼ活性は阻害しない. このような相互作用の生理的意味については目下検討中である.
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