研究概要 |
本研究の目的は, 哺乳動物の中枢神経系でD-アミノ酸酸化酵素の分布と生理的基質と考えられているチアゾリジンー2-カルボン酸(システアミンとグリオキシル酸と脱水縮合物)との関係を調べ, 神経解剖学と神経生化学の両面から本酵素の生理的意義の解明をめざすことである. まず光学および電子顕微鏡の両方に適用可能なニッケルイオインを用いた鋭敏な共役過酸化法による本酵素の組織化学的検出法を, ラット腎臓・肝臓・脳の切断を用いて検討し, その方法を確立した. 次に本法を用いてラット全脳での本酵素の神経解剖的分布を, 連続固定切断を用いて調べた. 本酵素は終脳には全く分布せず, 間脳にもほとんど活性はなく, 中脳以下の下位脳幹・小脳・脊髄のみに限局していた. その細胞は星状膠細胞(ベルクマン膠細胞を含む)であり, ニューロン成分には本酵素は全く存在しなかった. 小脳に関しては電子顕微鏡による詳細な観察を行った. その結果, プルキンエ細胞の樹状突起と平行線維とのシナプス・ゴルジ細胞の樹状突起への各種ニューロンの終末・篭細胞の終末・小脳糸球など各種シナプスを取り囲むベルクマン膠細胞の突起や星状膠細胞の突起に強い活性を認めた. また, 本酵素の組織化学的検出法をチアゾリジンー2-カルボン酸酸化酵素活性の検出のために適用し, この酸化酵素活性とD-アミノ酸酸化酵素活性の分布は一致することが判明した. 一方, 予備実験からD-アミノ酸酸化酵素活性が認められない終脳や間脳にD-アスパラギン酸酸化酵素活性が認められた. 上の結果から, 星状膠細胞の部位的分化およびペルオキヒソーム中の酵素分布の不均性が明らかになった. そして本酵素は代謝性エフェクターであるシステアミンの代謝やoxalyl thiol esterの生成に関与し, 代謝調節に寄与している可能性が考えられる. 特にシナプス周囲のグリア細胞の突起に活性が強いことは示唆的である.
|