研究概要 |
本研究では, 焼畑農業を「近代的農業(ヨーロッパ農業)」との対照的な位置にのある「伝統的農業」の範畴で把えながらも, 同時に社会経済的組織の変容とともにその性格を換えるものとてして設定されている. 従って, 研究者はこの設定の正当性を実証するために, 先ず研究対象地域である熊本県球磨郡五木村における焼畑農業をクロノロジカルな立場から追求し, とくに土地利用並びに土地所有の分析から, グルーの指摘している〃焼畑農業成立の二つの絶対条件〃のうち, 「権威ある慣行によって統率された土地の集団所有性の存在〃を否定する知見を呈示, 併せてさきの設定の成り立つことを先ずもって明らかにしている. そのうち, 市場原理に対応した新たな土地利用形態としての育成林地の造成が, 自立的な集落であった「小字」の経済基盤を脆弱なものにさせてきた反面, 閉鎖的な社会構造を解放に導いてきたほか焼畑農業自体をも自給自足的なものから, 商品生産的なものに変容させてきている. この過程で重視されなければならないことは, 「焼畑農業は, いわゆる粗放性のもつ効率性を活かした農業である」ということであり, 山村のように「耕地の規模的拡大」のはかれない地域では, まさしく山村経営の多角経営化の中で, 確固たる地位を有し得るものであるという点である. クロノジカル・アプローチを経て得たこの知見は, 従来, 焼畑農業を原始的な農業として蔑視してきた一般常識を打ち砕くものである. この意味において, 過疎的山村で急速に拡大しつつある疲弊した山林地域を活性化させるには, 住民自体の意識改革が不可欠である. 同時に, 一般耕地と殆ど変わらざる土地生産性を有する焼畑を, 施肥等を行って, その欠陥である土壌生産性の急速な表退を防ぐ手立ても必要である. 今後は, 「卓越林目に適った林地農業システムを〃焼畑の輪作形態〃, 〃焼畑耕作放棄後の植生変化〃, 〃土壌生産生〃の相互連関の中で考えて行きたい.
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