研究概要 |
本研究では, まず全国各地の図書館・資料館等に保存されている日記類の天候記録の収集・整理を行なったが, 18世紀後半については最終年度までに全国20地点(ソウルを含む)のデータを入手することができた. 収集した膨大な量の天候記録を, 晴天から雨天までの4段階に区分し, ベースマップ上に転記して30年間の暖候期(1771〜1800年の6〜9月)の毎日の天候分布図を完成した. 次に暖候期の雨域の分布特性を考慮して, 全国を5つの地域に区分し, 各地域の降雨出現の有無を基準に2^5=32通りの天候分布型を設定し, 毎日の天候分布型カレンダーを作成した. 30年間の天候分布型カレンダーを用いて各地域別の降水頻度を求め, 生起確率に応じて1から5までの5段階表示による全国乾湿分布図を復元した. ソウル(旧京城)についても, 日記の天候記録をもとに同じ手順で乾湿グレードの判定を行なった. 中国ではすでに, 各地方ごとの史料から復元された毎年の乾湿分布図が公表・出版されているので, 日本と朝鮮半島の結果を合わせることによって, ほぼ東アジア全域の乾湿分布図を復元することができた. これらをもとに, 毎年の乾湿分布特性について, 検討・考察を行なった. ところで, 天明の大飢饉年を含む1780年代は, 日本だけでなく中国や朝鮮半島においても気候異常がおこったと考えられる. そこで, 日本において夏季に著しい低温・多雨となった1783年と, 反対に顕著な高温と干ばつに見舞われた1785年について, 最近の異常天候年との比較を試みた. その結果, 1783年の夏(特に8月)の東アジアスケールでの総観場は, 最近では1980年のそれと類似しており, 日本列島の南岸から中国南部(華南)にかけて前線帯が長期間停滞するパターンになっていたものと推定された.
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