研究概要 |
超分子構造における大きさと形の決定機構を解明するため、λファージを材料として以下の研究を行った。筆者の従来の研究により、λファージ頭殻主要蛋白質gpEは、ミスセンス変異を持つと、大きさや形の異る5種類の構造へと集合することがわかっている。本研究では、種々の突然変異を塩基配列レベルで同定することにより、頭殻の大きさ・形の決定機構を担うgpEの構造・機能連関を明らかにし、決定機構解明への物質的基盤を整備した。具体的成果としては、43部位のアンバー変異株の位置決定を完成した。また、様々な大きさと形の頭殻関連構造を生産するミスセンス変異株31株のうち28株の同定を行った。後者には、Ser,Pro,Glyが置換されたものが多く、gpEの機能部位には分子表面のβ-ターンが多く含まれることが示唆された。一方、尾部の長さは「ものさし蛋白質」gpHの長さにより決定されることが、筆者らの研究で示されている。本研究では、invitroの遺伝子操作により、この遺伝子の中央部に様々な大きさの欠失を持つ変異株30株を作成した。このうち12株は短い尾部を持つファージ粒子を生産し、欠失がin-frameであれぱ尾部形成はほとんどの場合進行することがわかった。また、ものさし蛋白質は両端のみが他の蛋白質と相互作用して長さを測っており、中央部と他の蛋白質との特異的相互作用はないことが示唆された。上述の12株のうち2株は尾部先端の不安定性のため、10株はDNA注入の欠陥のため、ファージ粒子の感染性が失われていた。これらの機能にはgpHの中央部が重要な役割を果しているらしい。尾部筒状部の長さはgpHのアミノ酸残基数にほぼ比例するので、gpH分子全体がものさしとして使われていると思われる。これらの研究により、gpH分子の各部分の機能分担が明らかになり、長さ決定機構をさらに深く理解することができるようになった。
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