研究概要 |
1.球状タンパク質の折りたたみ反応初期における二次構造形成が一般的な現象であるか否かを検討するため、以下の二次構造パターンの異なるタンパク質を対象として、それらの巻き戻り反応をCDスペクトルの速度論的手法により研究した。対象としたタンパク質は、リゾチーム,α-ラクトアルブミン,パルブアルブミン,フェリチトクロームC,β-ラクトグロブリンである。 2.ストップトフロー装置を用いたグアニジン塩酸塩の濃度ジャンプにより各タンパク質の巻き戻り反応を誘起した。リゾチームとα-ラクトアルブミンでは、巻き戻り反応の充分遅い実験条件が実現可能なため、マグネティックスターラを応用した簡便な混合装置も用いた。反応の速度過程をペプチド主鎖のCDスペクトルと側鎖のCDスペクトルにより追跡した。 3.いずれのタンパク質においても側鎖三次構造の形成に先立って著しい主鎖二次構造の形成が観測された。リゾチームとα-ラクトアルブミンでは、それらの相同性から予想されるように、反応初期の中間体は、その二次構造及び安定性において互に類似しており、α-ラクトアルブミンの変性中間体と同一であると結論された。パルブアルブミンでは天然の約60%のα-ヘリックス構造が、チトクロームCでは天然状態に匹敵するα-ヘリックス構造が反応初期に回復する。β-シート型タンパク質であるβ-ラクトグロブリンでは、天然構造に匹敵するβ-構造と過剰のα-ヘリックス構造が反応初期に形成される。これらの反応初期の二次構造形成は、いずれもストップトフロー法の不感時間内に完了することも明らかとなった。 4.以上の結果より、タンパク質の折りたたみ反応は段階的であり、反応初期に主鎖二次構造のフレームワークが形成されたのち側鎖三次構造の形成が起こるものと結論される。
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