研究概要 |
交付申請書の研究実施計画に従い、25種の蛋白質の断熱圧縮率(【β!~】s)を測定し、主として統計的手法を用いて立体構造との相関を調べた結果、次の諸点が明らかになった。 ほとんどの球状蛋白質は、分子内部のcavityの効果が水和効果を相殺するため正の【β!~】sを示す。cavityは全体積の3〜6%におよび、水和効果を除いた蛋白質自身の圧縮率は通常の氷の圧縮率に近い。【β!~】sと蛋白質の分子量の間には有意な相関はみられないが、偏比容との間には非常に高い正の相関(相関係数0.85)がある。また、Bigelowの極性パラメーターやTanfordの平均疎水エネルギーとの相関から、疎水性の高い蛋白質ほど【β!~】sは大きく、その構造が柔かくなると考えられる。二次構造と【β!~】sとの相関はあまり良くないが、α-ヘリックス含量の高い蛋白質ほど【β!~】sは大きくなる傾向が認められた。アミノ酸残基の体積分率と【β!~】sの間の単相関,群相関および重回帰分析を行った結果、【β!~】sを大きくする残基はGlu,Leu,Phe,His(グループ1)で逆に小さくする残基はAsn,Thr,Ser,Gly(グループ2)、残りの12残基はほとんど【β!~】sに影響を与えていないことが分った。グループ1および2に含まれるアミノ酸は、それぞれα-ヘリックスの形成を促進および阻害する残基であることから、ヘリックス部分が17のダイナミックドメインになっている可能性が示された。圧縮率から見積った蛋白質の体積のゆらぎδVrmsは30〜200ml/molの範囲にあり、これは蛋白質の全体積の約0.3%(分子直径のゆらぎにして0.1%)に相等する。この値はX線解析から求められたものより幾分小さいが、ゆらぎによる諸現象を説明するのに合理的な値である。また、【β!~】sは温度の上昇(10〜40°C),グリセロールの添加(0〜40%)により増加することがわかった。これは主として蛋白質の脱水和に起因するものと考えられた。
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