研究概要 |
本研究の目的は大きく二つに分けられる。第一にはNMRによる生体超分子系の非破壊的研究の方法論の確立である。第二にはこれを脂質二重膜を持つウィルスPM2とその宿主Alteromonas espejiana BAL-31に適用し、そのintactな状態での動的構造と更に進んでそれらがPM2の感染機構とどのように関係しているかを明らかにすることである。DNA,蛋白質,脂質を持つという点で、PM2は複雑な生体超分子系のよいモデルとなる。第一についてはほぼ所期の目的を達することが出来、その一部は既に学術雑誌に発表した。これらの研究をとうして、交叉分極NMR法が巨大な分子集合体の研究、特にinvivo系での研究の有力な手段となりうる事が明らかになった。第二の目的については最大の難関であったPM2ウィルスの大量精製のシステムを確立し、intactなPM2ウィルス及び宿主細胞BAL-31について【^(31)P】-NMR及びプリバロフ型熱量計による研究を行なうことができた。第一の目的で述べた交叉分極NMRを用いてPM2についても、BAL-31についてもintactな状態での脂質二重膜由来及び核酸由来のスペクトルを分離して測定することに成功した。それらは各生体系での生体膜及び核酸の動的構造についての情報を与えるものである。次に、熱測定の実験より、今まで明らかになっていなかったPM2及びBAL-31の抽出脂質二重膜の相転移の挙動を明らかにすることができた。その相転移は非常に幅広く、サーモグラムは非対称な特徴的パターンを示した。これをintactな膜系についてのNMRの結果と比較すると驚いたことに相転移の終了点がPM2の場合もBAL-31の場合も両者で異なっている。その原因は今後の検討課題だが、この事実は本研究で開発した交叉分極NMRを使うことによって始めて明らかになった。これらを基にPM2の感染効率を分析すると、PM2の感染にはその脂質膜が液晶状態にあることが必須と思われる。
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