研究概要 |
樹木根系の斜面安定効果を主として上界定理を使うことにより評価することを行った。このためにまず根系分布をモデル化し,根系分布をシュミレーションモデルにより予測した。次に根系の基盤土層内への伸長様式により斜面を分類し,上界定理適用の基礎を作った。結果は次のように要約できる。 1)水平根をネットにより,鉛直根を短杭により表現し,根の斜面安定効果を表す概念モデルを提案した。これを使い根の斜面安定効果を評価した。2)水平根分布を推定するために,パイプ理論と根の分岐則を用いたシュミレーションモデルを作った。水平根量は2樹木間中央で最小値を示し,20年までは根量が急増するが,20年以後ほぼ一定値をとることが分った。 3)鉛直根については下層土(基盤)の条件により4種のタイプに分類して,そこへの根の伸長パターンにより根系の効果を検討した。下層土が鉛直根の伸長抑制を行う還移層タイプが最も広く出現し,かつ根の崩壊抑止効果が大きいことを指適した。 4)水平根と鉛直根の斜面安定効果を同時に評価するために上界定理を適用し,根の効果を検討した。水平根はシミュレーションモデルで,斜出根は遷移層が根系を抑制するモデルを導入して,すべり面における根量(直径,本数)を推定した。上界定理による解析結果によると,崩壊面積が少なくなるほど水平根効果が大きくなり,表層土厚が小さくなるほど鉛直根効果が大きくなることが示された。 5)上記の解析をもとに,表層崩壊の発生にかかわる諸要因を整理し,その各々に対する森林のかかわり方を議論し,森林が崩壊抑止にはたす役割を明確にすることを試みた。本研究により,斜面條件(表土層厚,基盤條件)と樹木條件(林令,伐採等)が与えられたとき,斜面安全率がどの程度樹木により変化するかの計算手法が開発された。
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