研究概要 |
細胞学的,組織学的及び染色体学的検索がなされた27種の培養細胞株,115例の白血病,リンパ腫につき各種の単クローン抗体を主として用いて膜表面抗原を検索し、免疫表現型を検討するとともに、腫瘍細胞を含む臨床材料から高分子DNAを抽出し、各種の制限酵素で切断し、agarose gel電気泳動後、nick translationにて得られた【^(32)P】標識cDNA probeと核酸分子雑種形成により、Southern blot法で、免疫グロブリン(Ig)遺伝子及びT細胞抗原受容体(TcR)遺伝子の再編成の有無を検索した。probe DNAとしてはIg遺伝子についてはJH,JK,Cλなど、TcR遺伝子については【C_(β1)】,Jγなどを用いた。その結果、T・B細胞系の比較的成熟段階に由来する細胞株や白血病,リンパ腫では免疫表現型と免疫遺伝子型には良好な相関が認められた。また系統特異的な分化抗原の発現が明確でなく、組織学的にも腫瘍及び非腫瘍細胞の多様な混在を示すリンパ腫ないし類縁疾患については、クローン性の確実な指標として有用と考えられ、このようなDNA診断は腫瘍細胞の単クローン性を同定する上で、表面マーカーよりはるかに優れていることが判明した。そのほか、T-ALLではTcRβ鎖の再編成が胸腺細胞の最も未分化な段階で既に起っていることが見い出され、また血球分化の初期段階に由来する急性白血病では、表現型と遺伝子型との間に必ずしも一致をみず、多系統にわたる形質を示す例や、二重遺伝子型を示す例があり、一層の検討が必要と考えられた。そのほかの研究成果として、ヒト胎児肝細胞をEBVでtransformしたpro-B細胞株FLEB14の変異株FLEB14Δ3はt(b;14)(q15;q32)の転座がみられ、H鎖probeで再編成を認め、領域遺伝子の単離と近傍の塩基配列決定からSμ領域に未知のDNAの再編成連結を認め、分子生物学的機序につき検索を進めている。また将来的に組織レベルにおけるin situのmolecular hybridizationを指向して、peroxidaseに代りalkaline phosphataseを標識とする解像力の良好な染色法の開発を試みている。
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