研究概要 |
近年のオンコジン(腫瘍遺伝子)に関する研究の進歩には目覚ましいものがあり、種々の疾患状態を呈する「癌」はオンコジンの活性化(細胞をトランスフォームさせるという意味において)された結果であると解釈されるようになってきた。化学発癌過程においてもオンコジンの活性化が報告されており、その機構として化学発癌物質のDNAへの結合が呼ばれている。しかし、化学発癌物質によるDNAの化学修飾がオンコジンの活性化を惹き起こし、その結果細胞を癌化させることを直接に証明した実験例は極めて少ない。本研究者は、加熱調理食品中に存在する発癌物質、2-アミノ-6-メチルジピリド〔1,2-a:B´,2´-d〕イミダゾール(Glu-P-1)および我国で見い出された発癌物質、4-ニトロキノリン-N-オキシド(4NQO)について、これらの発癌物質によるDNAの化学修飾がオンコジンの活性化を惹き起こし、細胞癌化の直接の原因となることを証明する実験を行なった。オンコジントしては点突然変異により活性化することの確立しているラス遺伝子を選択した。ヒト正常細胞由来のラス遺伝子(プロトラス遺伝子、細胞トランスフォーメーション活性を持たない)をGlu-P-1もしくは4NQOによりバイオミメティックに化学修飾し、Glu-P-1結合ラス遺伝子および4NQO結合ラス遺伝子を得た。これを、活性型オンコジンの検定に繁用されるNIH3T3細胞に導入したところ、高率にトランスフォーマントが得られた。このことはGlu-P-1や4NQOによるDNAの化学修飾がラス遺伝子を活性化し細胞をトランスフォームさせる原因となることを確実に証明したことになる。さらにトランスフォーマントにおいて組み込まれたヒトラス遺伝子の構造を解析したところ、約半数においてはプロトラス遺伝子の12番目コドンが突然変異することにより活性化されたラス遺伝子が存在していたことが判明した。
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