研究概要 |
ヒト腎細胞癌は、腎臓に発生する悪性腫瘍の約6割を占め、40才以上の年令層に多発する。本研究では、酵素処理法および短期培養法を導入し、腎細胞癌の染色体変化の分析を中心に細胞遺伝学的解析を進めてきた。現在までに、腎臓に発生した悪性腫瘍26例が摘出手術によって得られ、これらの内訳は、腎細胞癌23例、移行上皮癌2例、平滑筋肉腫1例であった。我々は、特に腎細胞癌23例に焦点を絞り、染色体解析を行った。これらの腎細胞癌は全て非家族性であり、病理組織学的に分類すると、通常型21例(淡明細胞亜型15例,顆粒細胞亜型3例,混合型3例),紡錘細胞型1例,また、特殊な腎細胞癌であるBellini管癌が1例であった。これら23例中18例(78.3%)において、分析可能な染色体像が得られ、現在までに14例の分析が終了した。染色体数のモードは、45=3例,46=10例,82=1例であり、Q分染法およびG分染法による解析の結果、19種類の染色体構造異常がクローンとして観察された。これらのうち12種類(63.2%)は第3番染色体の短腕に由来する異常クローンであり、また、症例別にみると、14例中10例(71.4%)に第3番の短腕の異常が観察されたことになる。これ以外では、第1,2,7,8,9番の各染色体が異常に関与していた。数的異常としては、XあるいはY染色体の消失が7例と最も多く、次いで第7番染色体のトリソミーが6例に観察された。本研究では、また、患者からの末梢血リンパ球を採取し、葉酸欠如の培地で培養すると同時に、EBウイルス感染によるリンパ芽球の細胞株を樹立し、脆弱部位の検索を行った。しかし、特異的部位は発見されておらず、現在、各種誘導物質を用いて検討中である。今回入手できた腫瘍組織は、その腫瘍原性を確認するため、ヌードマウスへの移植を試みており、これまでに2例が移植可能であった。また、培養系において、3例の長期癌細胞株が樹立されている。
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