研究概要 |
今年度の研究実績は主に下記の4つに分けられる。 (1)ヒト胃癌の増殖能・転移能に癌遺伝子rdsが関与するのか否かをみる為、107例の切除胃癌症例をras-P21単クローン抗体Rap5を用い、免疫組織化学的に検索した。Rap5によるras-P21の陽性度は癌細胞の組織学的異型度(核異型度など)と大まかに関連したが、増殖先進部では必らずしも陽性度の増加は認められなかった。転移巣では原発巣よりras-P21の陽性度高くかつ核異型も高度な傾向がみられ、原発巣中の特定(ras-P21強陽性で核異型高度)な細胞群が転移しやすい事を示唆した。なおras-P21は非癌組織中でも幅広く存在したが、胃の前癌病変あるいは前癌状態として議論されている腺腫および腸上皮化生(不完全型)腺管では、他の幽門腺・腺窩上皮などよりも高頻度に陽性を呈した。(2)個体発生上の正常臓器・組織におけるras-P21の生物・生理学的役割を検索した仕事では、ラットの胎児期から骨格筋,心筋,脳脊髄神経にras-P21の発現(免疫活性)が認められ、出生後、胃の塩酸分泌を担う壁細胞,肝細胞,腎尿細管などemergy産生,イオン交換,膜電位変化の盛んな臓器・組織にras-P21の発現を認めた。ras-P21のSignal transducer,high energy sourceとしての役割が強調された。(3)またWestern blot法による検索では、ras-P21含有が知られているai-1培養細胞、ヒト胃癌・大腸癌組織内の分子量21,000の蛋白質がras-P21の単クローン抗体Rap5や多クローン抗体と反応し、各抗体がras-P21を認識している事を確認した。しかし、両抗体は分子量の異なる他の蛋白質とも交又反応を示し、その特異性に限界がみられた。(4)Transfection assay-Southern blot法による検索では、35例の大腸癌中1例の直腸癌にN-rasの活性化を認め、Codon13の部位にSingle G→C point mutationがあること、P-21中ではGlycine→Arginineの変換があることを明らかにした。
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